話題の本アフターデジタルを読んだ。
噂に違わず良書だった。
中国で爆速で進んでいるデジタル化の事例がてんこ盛りとなっていた。その進展度合いを見るともはや日本は周回遅れにされている感すらある。
読んでいる中でとりわけ興味深かったデジタル化の事例が配車アプリの「DiDi(ディディ)」だ。DiDiは中国版Uber(ウーバー)のようなものだ。しかしDiDiはUberよりもさらに快適な乗車体験を提供していることで有名だ。実は中国市場においてUberはDiDiに勝てず中国事業を売却して撤退している。
DiDiはデータ活用でUberよりも進んでる
DiDIの快適な乗車体験を支えているのは評価システムだ。DiDiの運転手の評価システムではデータがフル活用されている。比較対象としてUberを取り上げよう。
Uberの評価システムにおいてはユーザーが乗車後に運転手を5段階でレーティングしそれが数値として反映されるようになっている。運転手ごとに4.79、4.82などの数値がつくようになっている。極めてシンプルな評価システムだ。
一方でDiDiの評価システムはどうなのか。
DiDiでは以下3つのデータを取得し運転手を評価している。
1つが「配車リクエストに対する応答時間」だ。ユーザーがアプリで配車をオーダーした際に運転手がすぐに応答したか計測している。またリクエストを請けたのにかかわらずキャンセルした際にもそのキャンセルのレートも残る。
2つ目が「配車リクエストを請けた後のユーザーを待たせた時間」。ユーザーがアプリでオーダーを完了するとユーザーのアプリ画面には「到着推定時刻はあと3分です」と通達が出る。その到着指定時刻通りに到着しているかも計測。運転手は勝手に寄り道する等できないようになっているのだ。
3つ目が「GPSとジャイロセンサーのデータ」だ。速度超過や急ブレーキ、急発進をするなど運転手が荒い運転をしていないかどうか分析している。
Uberの評価システムには問題点がある。言ってしまえばユーザーの主観で運転手への評価が決まってしまうからだ。精緻な評価システムとは言い難い。
しかしDiDiの評価システムだと客観的なデータで運転手を評価しているのでより信頼できる。このDiDiの評価システムというのは中国だからこそ生まれたと言えるだろう。
なぜなら中国ではUberの様な評価システムを導入すると運転手がユーザーに対して賄賂を支払って5をつけてもらうようなことが横行しかねなかったからだそうだ。するとその評価はまったくあてにならなくなってしまう。
運転手の行動が別人に
一般的な中国のタクシーというのは車線をまたいで前の車を抜こうとしりして運転もかなり荒いし「車内は俺の城」みたく横柄なところがあったそうだ。
しかしDiDiの運転手はそんな行動や態度はとらない。なぜななら荒っぽい行動や態度を取ると評価に響き「損するから」だ。
DiDiには運転手のランクが4つある。
・普通のタクシー
・快速タクシー
・プレミアムタクシー
・グジュアリータクシー
最初はみな普通のタクシーから始まるが評価が反映されるとランクがアップしていく。普通のタクシーとラグジュアリータクシーでは運賃に10倍もの違いがあるという。もちろん運転手への報酬もアップしていく。
だからこそ運転手はランクアップを目指して評価に傷がつかないよう顧客サービスにも気を使うわけだ。プレミアムタクシーの運転手だとトランクに荷物を入れるのを手伝ったり、降りるときに乗ってくれてありがとうと言ってくる運転手もいるそうだ。
以前の中国のタクシー運転手にはありえなかったことが起きている。
評価システムが人の態度・行動を変えるのは世界共通なのかもしれない。私が今いるコロンビアでもタクシーの運転手よりもUberの運転手の方が運転が丁寧だし「音楽は何が聞きたい?」などと質問してきたり顧客への心遣いが感じられる。
秀逸なインセンティブ設計
DiDiの運転手の数は中国で1500万人以上と言われている。ものすごい数だ。
データによって正確に自分の仕事が評価されて報酬がアップする体制が整っているのは運転手にとっても魅力的なのだ。
何をどのように努力すれば評価されて報酬がアップするかの道筋が見えているのでDiDIの運転手になりたいと考える労働者が多い。
運転手が多いとユーザーのいる場所へすぐに車を胚珠できるようになる。するとユーザーとしては早くてサービスも良いからDiDiをどんどん利用したくなる。ユーザーがどんどん集まってくる。
ユーザーが多いと運転手としても回ってくる仕事が多いのでDiDiで運転手をやるメリットが強くなる。
データを活用しDiDiは運転手とユーザーを大量に獲得し中国における配車アプリとして圧倒的な立場を築き上げたのだ。
今回アフターデジタルで紹介したDiDiは中国で爆心しているデジタル化の一例でしかない。アフターデジタルには他にもデータを収集してそれを事業に活用することで急成長した保険会社「平安保険」などデジタル化を進めることで躍進した企業の事例が盛りだくさんだ。
デジタル化の勝ち筋を知る上では必須の本と言える。噂に違わない良本なので一読をおススメする。