Netflixのナルコスはうんこ。
ナルコスの舞台の現地コロンビア人によるナルコス評である。
ちなみにスペイン語ではうんこ、糞のことを「Mierda」という。
ナルコスは1980年代、国家権力並みの権力を握ったコロンビアの麻薬マフィアとそれを鎮圧しようとするコロンビア政府の戦いを描いたNetflixのオリジナルドラマだ。
僕はこのナルコスに全く興味が湧かなかった。
なぜならコロンビアに滞在している際に現地のコロンビア人から
[speech_bubble type=”std” subtype=”L1″ icon=”woman4.png” name=”コロンビア人”] 「ナルコスのせいでコロンビアが暴力の国だと思われる。コロンビアのイメージが悪くなった。ほんとナルコス最低。」[/speech_bubble]
と悪い評判を聞いていたからだ。
僕もコロンビア人に若干同情してナルコス糞だな~と思って敬遠していたのである。
でも、日本にいる友達とスカイプで話をしていると「ナルコス面白いよね」と耳にすることが増えた。
これは僕も一応ちょっとは目を通しておかねばと思い、Netflixの再生ボタンを押した。
これが間違いだった。
ナルコスにはドンパチものの迫力ある暴力シーンがたくさん出てくる。
でも、僕はそこに面白さを見出したのではない。むしろナルコスの人間描写に面白さを感じた。
麻薬マフィアのパブロ・エスコバルは悪人だけど仲間や家族想いなところもあるんだな。
そんな発見をし不思議な感覚を抱いた。
しかし、言っておくがパブロ・エスコバルは性格的には史上最悪レベルの傲慢で嫌な奴である。
敵に対して寛大なフリをしておきながら闇討ちする。
自動車に爆弾を仕掛ける。
まったく仁義がない。
しかし、ナルコスのパブロ・エスコバルには不思議と興味が惹かれるのだ。
第一話を見終えて
「もう一話だけ観てみよう」となった。
白状しよう。この時僕はすでにナルコスの世界にハマり始めていた。
ナルコスに登場するパブロ・エスコバルをはじめとする麻薬マフィアたち。彼らはクズすぎると同時に実はいいところもあったりと人間の複雑さをあぶり出している。
あえてそういう演出、役作りにしているのだろう。
なぜならナルコスの狙いは「善悪という二元論で簡単に割り切れない人間と人間社会を描く」ことにあるのだから。
ナルコスの予告編動画にも印象的なフレーズがある。
「人生は見かけより複雑だとナルコスの世界から学んだ」
ナルコスはブラジル特殊部隊BOPEとリオデジャネイロのギャングとの抗争を描いた映画エリート・スクワッド で有名なブラジル人監督ジョゼ・パジーリャ氏(上記写真左)が撮影指揮を取っている。エリート・スクワッドも鬼おもろいのでおススメ。
エリートスクワッドは暴力、殺人も辞さない「暴力で正義を遂行する」ブラジル特殊部隊BOPEと汚職警察や汚職まみれの政治家との戦いを描いた作品だ。善悪で単純に割り切れない世界を非常にうまく描いてる名作である。
ジョゼ氏の人間と社会の本質を鋭く抉る視点は『ナルコス』にも存分に活かされている。
コロンビアの麻薬王ナルコスめっちゃ面白すぎて朝まで見てた、、実話やから怖ろしい、、南米怖い
— しんごはん (@rockshinchan) 2018年5月30日
当記事では僕が「ナルコスのここが面白い!」と感じた見所3点をご紹介する。
ナルコスの見所➀:狂気の正義と狂気の悪がぶつかり合う
ナルコスでは一般的に正義であるはずの警察が人権無視でパブロ・エスコバルが率いる麻薬マフィア組織「メデジン・カルテル」への掃討作戦を行う。
仲間の居所を教えなかった麻薬マフィアのメンバーをヘリコプターの上から突き落とす。
拷問にかけて殺す。彼らは正義で動いているというよりも家族や仲間を殺されたことの復讐で動いているのだ。まさに狂気の正義である。
一方で麻薬マフィアも狂気である。パトロールしている警察官を襲撃し始める。
警察署に手りゅう弾を投げ込み爆破。
さらには大統領が搭乗予定だったアビアンカ航空機に爆弾を仕掛けて爆破(※大統領は急遽搭乗を取りやめており危機一髪だった)
麻薬マフィアはコカインで得た莫大な資産をもって国家権力に挑戦し始めたのだ。
しかし、麻薬マフィアは多くの人を巻き込みすぎた。家族を殺された遺族たちは黙ってはいなかったのだ。
Los Pepesという自警団が立ち上がりパブロ・エスコバルの麻薬マフィアに死をもって報復し始める。
徐々にパブロ・エスコバルの家族にも危害を加えていく。
物凄いカオスな世界が広がっている。
ナルコスの見所②:悪と善が混在する人間の本質を描いている
ナルコスの見どころは「麻薬マフィア」ではなく「人間」を描いているところだ。
麻薬マフィアとて人間である。宇宙人ではない。彼らには友達もいれば家族もいる。冗談も言い合う。
悪の一面だけではなく善の一面もあるのだ。ただその悪の一面が大きすぎるから悪人とされるのだ。
やっていることは許されるものではないのだが彼らも1人の人間だ。
たとえばパブロ・エスコバルの場合。
賄賂になびかない政治家、警察官、検事、裁判官を殺害し、果ては一般市民を巻き添えにした爆弾テロまで実行する極悪非道な男。
自分を裏切った者はかつて仲間であったとしても絶対に許さず、どこに逃げようが抹殺する。
それと相反するかのように家族愛や慈善活動に熱心な顔も持っていた。幼い娘がユニコーンを誕生日プレゼントを欲しがった時には馬の頭に牛の角をひっつけユニコーンのようにしてプレゼントしたという逸話もある。
パブロ・エスコバルは自身の莫大な資産を投資してサッカースタジアムを建設しクラブチームを創設。今でもそのクラブチームは存在している。
また、貧困層のために住居を建設するなど慈善活動にも熱心であり地元メデジン市では英雄として称えられていたのだ。
今でも彼が住んでいた家の付近にはパブロ・エスコバルの顔がプリントされたTシャツを着ている地元住民がいるくらいなのだ。
ナルコスの見所➂:「モテたい」行く場のない野心ある若者のエネルギーが爆発
ナルコスを観ていると、パブロ・エスコバルが率いる麻薬マフィア組織のメデジン・カルテルは行く場のないエネルギーを持て余していた若者の受け皿になっていたことが分かる。
パブロ・エスコバルは身内の若者とパーティーに出かける、自宅に招く、バイクレースを催すなど家族同然の扱いをした。
さらに麻薬密輸、敵対勢力の有力者暗殺などの犯罪行為の「仕事」が成功した際には報酬をたっぷり支払った。
ただし、裏切り者に待っているのは死あるのみだ。
一度「メデジン・カルテル」に加入した若者は裏切るに裏切れず、共犯者の様な関係となる。
「メデジン・カルテル」は社会的に存在が抹殺された野心ある若者のエネルギーの受け皿として機能し、そのエネルギーを原動力として成長していった。
コロンビアは経済格差が物凄く貧乏からリッチになるのはほとんど不可能だ。野心ある若者で一攫千金を求める若者が麻薬マフィアになるのも成り行きだったのかもしれない。
エネルギー溢れる若者にとってはマフィアというのは一種のアイデンティティーとなっていた。
ナルコスではパブロ・エスコバルはじめ麻薬マフィアが美女を連れている姿が描写されている。
ただ、その辺でぶらぶらしているチンピラがモテることはあまりないだろう。
けれども、マフィア業でお金をタップリ得て、さらに権力を持っている強面男には女が寄ってくるのだ。
ナルコスにおいてもパブロ・エスコバルに近づき遂には愛人となった美人リポーターの姿が描写されている。
人々は必ずしも正しいことをしている人物に惹かれるのではなく、社会のルール・規範を破ったワル要素のある人物に惹かれる傾向にある。
行き場のない野心ある「モテたい」若者が「モテるため」に麻薬マフィアになった側面は確実にある。
「モテたい」欲望というのはそれほどまでに強烈なのだ。
余談だが、現在のコロンビア政府は野心ある若者のエネルギーの受け皿の整備に力を入れていることが伺われる。
職業こそが若者のアイデンティティーとなり社会の安定化につながるとの意向からだ。
職業訓練を無料で受けられるSENAと呼ばれる学校を国内中に多数建設している。
ここまでナルコスの見所をお伝えしてきた。
しかし、ナルコスを観る上で気を付けたいことがある。
ナルコスの罪は麻薬マフィアを美化しすぎたこと
ナルコスには史実にもとづいていない描写があったり、麻薬マフィアを美化しすぎている嫌いがある。
ナルコスにはブラジル人監督ジョゼ氏の作風がふんだんに盛られている。ジョゼ氏は以前に監督した映画エリートスクワッドでも陽気なラテン音楽をBGMで流す一方で残虐な殺戮シーンを描写した。
ナルコスでもコロンビア発祥の陽気なラテン音楽が流れる一方で脳天を撃ち抜かれるマフィアの姿が描かれていたりと独特の作風となっている。
ナルコスが非常にエキサイティングでダイナミックな映画に仕上がっているのはジョゼ氏の功績だろう。
しかし、繰り返しになるが麻薬マフィアを若干美化している。
麻薬マフィアは賄賂に応じなかった政治家や警察官、検事、裁判官、弁護士をかなりの数暗殺した。
パブロ・エスコバルなんて大統領暗殺を企てて民間航空機を爆破したり、街中に自動車爆弾を仕掛けたりと民間人数百人以上巻き添えにしたのだ(※大統領はその便には登場していなかった)
ナルコスはこの被害者の声をほとんど描けていない。面白いストーリー展開にするために省略せざるをえなったのかもしれない。
ナルコスはあまりに被害者や遺族に対する配慮が足りていないのではないかと思う。
このパブロ・エスコバルが引き起こした惨事は20年ちょっと前のことなのだ。
日本では1980年代後半にX japanなどのビジュアル系バンドが活動開始を始めた時期と重なるくらいだ。
巻き込まれた被害者の遺族の年齢も30~50代だったりと決して古い出来事ではない。
コロンビアではナルコスが描くパブロ・エスコバル像に対して非難の声が向けられている。
これ以上、パブロ・エスコバルを美化する映画を増やすな!
ナルコスでコロンビアのイメージが悪化した
また、「俳優の選抜が雑すぎ」との批判もある。
パブロ・エスコバル役を演じているのがブラジル人俳優のワグネル・モウラ。母語はポルトガル語でありパブロ・エスコバル役を演じるにあたりスペイン語を特訓して習得したようだ。
筆者はスペイン語を少々話せるが、確かに彼のスペイン語はネイティブのスペイン語ではないことが分かる。
パブロ・エスコバルの奥さん役もコロンビア人ではないハリウッドで活躍するメキシコ人女優が演じている。
さらに、パブロ・エスコバルの実の息子(下の写真)がナルコスが史実と違っている点が多いと非難の声を上げている。
この息子はパブロ・エスコバル死後、16歳のころにアルゼンチンに移住。その後建築学を学びコロンビアに帰国して、パブロ・エスコバルに代わって被害者遺族に対面で謝罪を行うなど真っ当な青年である。
ナルコスを観た人は「コロンビア恐ろしい」とぎょっとするかもしれない。
ナルコス観てるけどメキシコ怖すぎ絶対行かない😱😱😱😱😱😱
— た (@N7_StrikesAgain) June 2, 2018
ナルコスの舞台はメキシコではなくコロンビアだが…
どちらにせよ、凶悪なイメージがコロンビアにこびりつく手助けをしてしまったのもナルコスの負の側面だ。
現在のコロンビアは麻薬マフィアが表立って警官と銃撃戦を繰り広げたり血で血を洗う様な抗争が繰り広げられる土地ではなくなっている。
むしろエルサルバドル、ニカラグア、パナマ、ブラジルなど中南米諸国に比べるとコロンビアの方が治安が良いのではないだろうか。
あくまでもナルコスは脚色が入ったエンタメ的人間ドラマとして一歩引いて観るべき作品である。
最後はなんだかナルコスを落とす感じになってしまったが、見て決して損はないドラマ。
面白くて毎日夜更かししてまで観てしまうこと必至だ。
ナルコスの世界にさらに理解を深めたいのであれば「パブロを殺せ―史上最悪の麻薬王VSコロンビア、アメリカ特殊部隊」が凄くおススメ。
ナルコスはNetflixに加入すれば全編見れる。ベーシックプランは月額800円
Netflixナルコス
Amazonでもパブロ・エスコバルが暴れまわるシーズン1全編がDVDで販売されている。なかなか値は張るがそれだけの価値はあるだろう。
パブロ・エスコバルについては別記事で詳しく紹介している。是非読んでみてほしい。